専門医制度

運用内規

専門医制度運用内規

2006年5月31日制定

第1章(専門医制度施行における考え方等)

呼吸器疾患と専門医制度の現状
我が国は、世界でもっとも社会の高齢化が進んでいる国の1つである。高齢化に伴う疾病構造の変化により、COPD、呼吸器感染症、肺腫瘍などの呼吸器疾患が急増しつつある。世界的にみても呼吸器疾患の増加は顕著で、WHOの試算では、21世紀における10大死因のうち4つは呼吸器疾患とされている(Lancet, 1997)。呼吸器疾患の急増に対応するために、適正数の呼吸器科医、呼吸器専門医の配置が必要と考えられる。
呼吸器疾患の診療におけるもう1つの問題点に、その疾患領域の広さと労働集約性の高さがある。外界と直結し、循環器系と連動し、重要な代謝臓器でもある呼吸器系は、感染、アレルギー免疫異常、発癌、代謝異常、酸化障害、循環障害といった多彩な病態を呈し、病態の帰結としての機能異常は呼吸不全として生命維持の重篤な危機に繋がる。呼吸器疾患の診療は、これらの多彩な病態の十分な理解と経験が不可欠である。加えて、わずかな中断が死に結びつく「呼吸」という生命現象の救済と維持にあたっては、慎重かつ休みない観察と治療が必要になる。薬物療法、酸素療法、人工呼吸療法、理学療法とその選択肢も広く、かつ高度の知識と経験が要求される。そのような意味で、呼吸器専門医の質の確保はけっして容易ではないという現実がある。
我が国の疾病構造の変遷に伴って至適専門医数は変動すると考えられる。平成26年度の我が国における傷病分類別に見た呼吸器疾患患者の受療率(厚生労働省調査、厚生の指標 国民衛生の動向 2017/2018年より引用)は、入院で人口10万対71、外来で10万対526であり、循環器疾患(脳血管障害を除く)、消化器疾患(歯科領域を除く)と比較した場合、入院で1.00:0.90:0.73、外来で1.00:1.25:0.87となっている。(いずれの分野も感染症および新生物は除いている)
一方、各学会の専門医数/会員数は、呼吸器:循環器:消化器で、それぞれ6,201/12,894:14,097/26,291:20,041/34,453となっており、患者数に対する会員数、専門医数、専門医/会員比のいずれも呼吸器学会が少ないという現状がある。(2017年11月現在)
また、呼吸器学会認定施設数は、710施設(2017年11月現在)であるが、呼吸器科を有する医療機関と呼吸器科専門医の不足は深刻である。
超高齢社会での社会の要請に応えるためには、適正な専門医比率を維持することは重要ではあるが、良質な医療を提供するために必要な会員、専門医の絶対数を確保することも重要なことである。
このような医療環境と社会状況を視野に入れながら、国民に対して良質な医療を過不足なく提供するために専門医制度を構築してゆくことが必要と考える。以上のような観点から、一般社団法人日本呼吸器学会は定期的な制度の改正等を通じて、社会に真に貢献する専門医制度の構築を目指す。

第1条(専門医制度施行内規の制定)

一般社団法人日本呼吸器学会専門医制度規則及び細則の運用について、この内規を定める。

第2条(専門医・指導医の適正比率)

一般社団法人日本呼吸器学会に入会して呼吸器病学を標榜する者のうち、呼吸器専門医資格を有する医師の比率はおおむね70%程度を目標とする。また、呼吸器指導医資格を有する医師の比率はおおむね25%程度を目標とする。

  1. 専門医の適正数に関しては、末尾の我が国の専門医制度の現状からすると、呼吸器専門医の絶対数は不足していることは明かである。社会の要請に応えるためには、専門医数は10,000名程度まで増員する必要があり、専門医の質を維持するためには、会員数を15,000名以上に増員することを目標とする。

第2章(カリキュラム)

第3条(到達目標)

専門医資格取得の到達目標を設定する(一般社団法人日本呼吸器学会 学会専門医制度 研修カリキュラム(以下「カリキュラム」と称する)を参照のこと)

  1. カリキュラムは医療の発展や医療環境の変化に準拠して4年毎に見直すものとする。

第4条(必須検査経験)

専門医資格取得のためには、カリキュラムに示された〈総論〉IV.検査(Aa及びAa')の経験と十分な理解が必須である。

  1. 経験の有無及び、その件数については、手技申告用紙の記載欄によって申告しなくてはならない。
  2. 気管支鏡検査ならびにこれに関連した検査については、記録用紙のコピーを添付しなくてはならない。

第5条(必須症例経験)

専門医資格取得のためには、カリキュラムに示された〈各論〉にある疾患を主たる病名とする症例経験の内訳を、申告しなくてはならない。

  1. 当該症例の病歴要約を添付しなくてはならない。
  2. 必須経験症例は以下の通りとする。
    1)カリキュラム各論Iの1から3例(内科系については、内1例は肺結核症を含むこと)(症例番号1、2、3)
    2)カリキュラム各論Iの2から2例(症例番号4、5)
    3)カリキュラム各論Iの3から2例(症例番号6、7)
    4)カリキュラム各論Iの4から3例(症例番号8、9、10)
    5)カリキュラム各論Iの5から2例(症例番号11、12)
    6)カリキュラム各論Iの6、7、8、9、10、13から3例(症例番号13、14、15)
    7)カリキュラム各論Iの11から2例(症例番号16、17)
    8)カリキュラム各論Iの12から1例(症例番号18)
    9)カリキュラム各論IIから2例(症例番号19、20)
    10)カリキュラム各論IIIから2例(症例番号21、22)
    11)カリキュラム各論IV、V、VIから1例(症例番号23)
    12)内科で診断をつけ、外科に手術を依頼した症例から2例(症例番号24、25)
  3. 外科系においては、必須経験症例は以下の通りとする。
    1)カリキュラム各論Iの1から2例(症例番号1、2)
    2)カリキュラム各論Iの2、3から2例(症例番号3、4)
    3)カリキュラム各論Iの4、5、6、7、8から2例(症例番号5、6)
    4)カリキュラム各論Iの9、10から2例(症例番号7、8)
    5)カリキュラム各論Iの11、12、13から5例(症例番号9、10、11、12、13)
    6)カリキュラム各論IIから1例(症例番号14)
    7)カリキュラム各論IIIから3例(症例番号15、16、17)
    8)カリキュラム各論IV、Vから4例(症例番号18、19、20、21)
    9)カリキュラム各論VIから2例(症例番号22、23)
    10)術後、内科との連携を要した症例から2例(症例番号24、25)
    注釈
    • 上記症例は重複できないものとする
    • 主治医・担当医・指導医としての診療実績がある症例に限る

第6条(必須手術・技術の内容と経験例数)

専門医資格取得のためには、カリキュラムに示された必須手術・技術(Aa)の経験がなくてはならない。

  1. 必須技術・手術の内容と必要経験数は以下の通りとする
    1)胸部X線透視 30件
    2)気管支鏡 20件
    3)末梢病巣擦過診 10件
    4)経気管支生検(TBB)・経気管支肺生検(TBLB) 10件
    5)気管支肺胞洗浄(BAL) 10件(外科系においては、4)、5)あわせて10件)
    6)内視鏡的気道吸引 5件
    7)胸腔穿刺法 10件
    8)動脈採血* 50件
    9)酸素療法 30件
    10)吸入療法 30件(外科系においては3.を必須とする)
    11)人工呼吸管理(NIPPVを除く) 2件
    12)NIPPV 2件(外科系においては3.を必須とする)
    13)気管挿管 5件
    14)心マッサージ 10件
    15)胸腔ドレナージ 5件
  2. 術者として開胸手術・胸腔鏡下手術 20件[開胸手術、ロボット支援を含む胸腔鏡下手術、胸骨正中切開によるもの] (外科系においては前項2.10)および12)にかえて本項目を必須とする)。

第7条(カリキュラム以外の項目に関する教育研修)

専門医資格取得のためには、カリキュラムに定められたものの他に、以下の項目に関する教育、研修を受けなくてはならない。

  1. 医療倫理
  2. 医療安全
  3. 感染対策
  4. 医療関連法規
  5. 医療事故対策
  6. 異状死の対応
  7. 人間関係
  8. EBMの実施

第3章(試験制度)

第8条(申請資格)

呼吸器専門医の申請資格は、日本呼吸器学会専門医制度規則第4章第14条に従うこととする。
専門医の認定を申請する者は、次の各条件をすべて充足することを要する。

  1. 基本領域学会の専門医等の資格を取得した年度も含めて3年以上継続して本学会の会員であること。
  2. この規則により認定された認定施設において、本学会所定の研修カリキュラムに従い基本領域学会の専門医等の資格を取得した年度も含めて3年以上、呼吸器病学の臨床研修を行い、これを終了した者。基本領域学会が日本外科学会である会員については、別途申請に関する施設要件を定める(附則9)。
  3. 呼吸器学会関連施設における研修期間は、認定施設の研修期間に0.75を乗じたものとする
  4. 非喫煙者であること。
  5. 臨床呼吸機能講習会の受講。

第9条(申請内容の監査)

専門医制度統括委員会は申請内容について監査することができる。申請者は統括委員会から監査請求があった場合には応じなければならない。監査を受け入れない場合及び申請内容に虚偽があった場合には、専門医の認定を取り消すことができる。

第10条(研修記録の評価基準)

研修の記録は、本運用内規第4条から第6条に定めた症例経験の退院要約、検査記録等を添付する。専門医試験受験資格は定められた要件すべてを満たした場合とする。

第11条(筆記試験難易度調整)

筆記試験は一般問題と実地問題から構成され、合格率80%台を目標とする。また、10%程度を過去の問題から出題し、その正答率から難易度の微調整を行うことがある。試験後、正答率20%以下の問題、識別指数が0.1未満でかつ正答率60%未満の問題については削除することがある。

第12条(合格基準)

原則として、総合得点で60%点以上を合格とする。

第13条(不正行為の対応)

不正行為を行った者に対しては、統括委員会及び理事会の議決によって専門医の認定を取り消すことができる。

第14条(合格率の公表)

合格率および合格者数は公表するものとする。

第4章(施設認定)

第15条(認定施設数の基準)

冒頭に示した我が国の専門医制度の現状から試算し、現状における認定施設数の設置基準を全国で概ね750施設とする。

第16条(認定施設の研修体制の基準)

認定施設は以下の研修体制を備えなくてはならない。

  1. 受け入れ研修生数は、専門医及び指導医の合計人数の3倍を超えないこと。
  2. 院内学習、検討会、CPC等を定期的に開催すること。
  3. 感染対策に対する院内研修制度を有するか、または院外研修が可能な体制を整えていること。
  4. 呼吸器疾患関連法規に対する院内研修制度を有するか、または院外研修が可能な体制を整えていること。

第17条(関連施設の研修体制の基準)

関連施設の認定を申請する診療施設は、次の各条件をすべて充足することを要する。

  1. 呼吸器系病床として10床以上有すること。
  2. 専門医1名以上が常勤し、良質な呼吸器疾患の診療体制がとられていること。
  3. 研修カリキュラムに基づく研修が可能であること。
  4. 認定施設との十分な連携下に定期的指導教育体制がとられていること。
  5. 受け入れ研修生数は、専門医及び指導医の合計人数の3倍を超えないこと。
  6. 院内学習、検討会、CPC等を定期的に開催すること。
  7. 感染対策に対する院内研修制度を有するか、または院外研修が可能な体制を整えていること。
  8. 呼吸器疾患関連法規に対する院内研修制度を有するか、または院外研修が可能な体制を整えていること。

第18条(特定地域関連施設の研修体制の基準)

呼吸器診療の均てん化を図るために、呼吸器専門医数が極端に不足し、また専門医養成に支障をきたしている地域に限定して特定地域関連施設を設ける。特定地域関連施設の認定を申請する診療施設は、次の各条件をすべて充足することを要する。

  1. 内科学会認定教育施設または内科学会関連教育施設であること。
  2. 呼吸器系病床として10床以上有すること。
  3. 関連分野の専門医・指導医が常勤し、良質な呼吸器疾患の診療体制がとられていること。
  4. 研修カリキュラムに基づく研修が可能であること。
  5. 認定施設との十分な連携下に定期的指導教育体制がとられていること。
  6. 院内学習、検討会、CPC等を定期的に開催すること。
  7. 感染対策に対する院内研修制度を有するか、または院外研修が可能な体制を整えていること。
  8. 呼吸器疾患関連法規に対する院内研修制度を有するか、または院外研修が可能な体制を整えていること。

第19条(運用内規の疑義)

運用内規の実施に関して生じた疑義については、統括委員会の議による。

第20条(運用内規の改正)

本運用内規は、呼吸器学会専門医制度の社会からの要請及び我が国の専門医制度の現状に即して適宜改正するものとする。

  1. この内規の改廃は統括委員会の議を経て、理事会の承認を受けなければならない。
  2. カリキュラムの見直しがなされた際には、対応する項目をすみやかに改正することとする。
  3. 改正があった際は、修正の次年度からの申請に適応されるものとする。
附則
  1. この運用内規は、平成18年5月31日より施行する。
  2. カリキュラム以外の研修項目については、定期的な見直しが必要である。
  3. カリキュラム以外の研修項目の受講実績は、平成21年度以降の申請について、受講証明を必須とする。
  4. 平成20年6月14日一部改訂
  5. 平成21年6月11日一部改訂
  6. 平成22年4月22日一部改訂
  7. 平成23年6月3日一部改訂
  8. 平成24年4月19日一部改訂
  9. 第8条第2項に加えて、暫定措置として以下の者にも申請資格を与えるものとする。:基本領域学会が日本外科学会であり、かつ、外科専門医(日本外科学会認定登録医を含む)取得後3年間、外科専門医制度の指定施設、呼吸器外科専門医制度の基幹施設または関連施設において、所定の研修カリキュラムに従い呼吸器病学の臨床研修を行い、これを終了した者。
  10. 平成24年12月7日一部改訂
  11. 平成25年2月1日一部改訂
  12. 平成25年12月6日一部改訂
  13. 平成26年4月24日一部改訂
  14. 平成29年12月10日一部改訂
  15. 令和6年2月13日一部改訂