新型コロナウイルス感染症 (COVID-19)

【呼吸管理学術部会】厚生労働省「新型コロナウィルス感染症診療の手引き」記載の呼吸管理に関する事項について

呼吸管理学術部会

2021年3月7日
一般社団法人日本呼吸器学会 呼吸管理学術部会

 COVID-19第3波流行期における各施設での呼吸管理の最新状況に関して,呼吸管理学術部会より「COVID-19 第3波流⾏期におけるNPPVおよび高流量鼻カニュラ酸素療法(ハイフローセラピー)の使用についてのアンケート結果(2021.3.2)1」,「COVID肺炎に対するHFNCの使用について Ver.2(2021.2.5)2」をJRSホームページ上に掲載しています.その他,日本呼吸療法医学会と日本臨床工学技士会合同で本件に関連する最新の見解のまとめが報告されています「人工呼吸第38巻 第1号(2021.2.4)特別寄稿 総説.陳 和夫,他.COVID-19肺炎に対する酸素療法と経鼻高流量酸素療法の適応について3」.今回それら最新状況を踏まえて,実診療で皆様の施設でも参考にしていると思われる厚労省「新型コロナウィルス感染症診療の手引き(最新4.2版:随時アップデート)」記載の呼吸管理に関連した考案事項をお示しします.
(以下,HFNC(high flow nasal cannula)に関しては,手引き書に合わせて「ネーザルハイフロー」と表記)

1)ネーザルハイフロー (vs.リザーバー付きマスク)の使用について
 ネーザルハイフローは,1型呼吸不全の挿管率や死亡率を減らし,使用には必ずしもICUを要さずICU滞在や人工呼吸使用の抑制にも役立ち,また挿管を希望しないDo Not intubate (DNI)の場合や抜管後の管理などでも有用な手段である.しかし高流量ガスが上気道内を通過して外部へ流出するオープンシステムであるため,COVID-19の場合エアロゾルを発散させて院内感染をきたす懸念があることが知られている.
 現在,呼吸管理部会では「患者数の爆発的な増加に伴いICUの圧迫が著しい場合において,体制的に実施可能な施設では積極的にネーザルハイフローを使用していく戦略をとることで,医療資源の節約と患者の予後改善が期待される」と考えている2.そのような状況下で行われた2021年2月3日~24日の期間でのアンケート1では,回答が得られた日本呼吸器学会認定及び関連139施設のうち約半数の68施設でネーザルハイフローの使用経験があることが判明している.しかも,そのうち58施設(85%)から,「有効な印象があったと」との回答を得ている.一方で,「医療者に感染した事例がなかった」と回答した施設が64施設(94%)で,4施設(4%)が「どちらともいえない」,1施設(2%)が「感染した」との回答であった.この結果からは,COVID-19の流行,地域,施設,医療スタッフなどの状況に応じて,また感染に対する種々の注意点(参考資料2,3)「原則として陰圧個室で使用すること」,「医療者はN95マスクを含めたPPE装着を順守すること」,「カニュラを鼻腔内に正確に挿入すること」,「カニュラの上からサージカルマスクを装着すること(少なくとも医療従事者の入室前及び入室中は必須)」,「ガス流量は30-40L/分程度にし,不足時に増量を検討すること」「水抜きが必要な場合は,水分の飛沫に注意が必要」などの注意点を踏まえれば,その使用は許容できると考えている.一方,リザーバー付きマスクに関しては,ネーザルハイフローと同様エアロゾル発生による院内感染のリスクが懸念されるため陰圧個室で使用することが重要であるが,両者の効果を鑑みて「ネーザルハイフロー機器がない場合もしくは施設の酸素供給量に問題がある場合」に使用を考慮する.以上より,実臨床において,機器や施設の酸素供給量に問題がなく,陰圧室が使用可能でPPE装着下であれば,ネーザルハイフローがリザーバーマスクよりも優先されると考える.

2)「陰圧個室がある場合」 vs. 「陰圧個室がない場合」について
 上述したように,エアロゾル発生による感染リスクが懸念される酸素デバイスを用いる場合は,「陰圧個室あるいはレッドゾーンへの隔離は可能か」という条件と,「それ以外の場合」を区別することが重要と考える.

3)CPAPの使用,NPPVの使用について
 CPAPとNPPVは気道に陽圧を加えることができるため,平圧で行う酸素療法とは異なる効果が期待される.しかし吸気相で圧が上昇するNPPVは,CPAPと比べてマスク周囲の漏れが多く,エアロゾルの漏出も多量になると考えられるため,COVID-19患者に非侵襲的陽圧換気の適応があると考える場合は,まずはマスクCPAPを選択する.しかし使用時には,呼気ポートとマスクの間にフィルターを入れることのできる機種を使用し,かつマスク周囲からの漏れを少なくするように注意することが重要と考える.
 なお,2021年2月3日~24日の期間で行われたアンケート1では,回答が得られた呼吸器学会認定及び関連139施設のうち「NPPVの使用経験がある」施設は18(13%),「CPAPの使用経験がある」施設は6(4%)と少なかった.そのなかで「治療手段として有効な印象があった」と回答したのは,NPPVで5施設(28%)(どちらともいえない8施設(44%)),CPAPで2施設(33%)(どちらとも言えない2施設(33%))であった.一方で,「医療者に感染した事例がなかった」と回答した施設がNPPVで10施設(87%)(2施設(13%)がどちらともいえない),CPAPで6施設(100%)と回答されている.以上より,実診療の現場でも,有効性と安全性に関して十分な経験や知見があるとはいえない状況である.しかし本邦には,CPAPやNPPVを使用している患者が50万人以上いると推定されており,COVID-19感染時に在宅医療の継続または新規に必要となる例が少なからず存在すると考えられる.したがって,今後はリスクとベネフィットに応じてCPAPおよびNPPVの適応範囲が拡大する可能性はある.

4)挿管の適応についての考慮について:DNI(do-not-intubate)を含む
 実際のCOVID-19診療では,本人,家族の希望,病状,基礎疾患,年齢などの状況を慎重に考慮した上で,DNIを選択する場面もあると思われる.そのため,呼吸状態悪化が急速な例など人工呼吸器装着の可能性がある酸素療法使用時は,挿管の適応について十分な検討が必要と考えられる.

参考資料

  1. 日本呼吸器学会「【呼吸管理学術部会】COVID-19 第3波流⾏期におけるNPPVおよび高流量鼻カニュラ酸素療法(ハイフローセラピー)の使用についてのアンケート結果(2021.3.2)
  2. 日本呼吸器学会「COVID肺炎に対するHFNCの使用について Ver.2(2021.2.5)
  3. 陳 和夫, 他.人工呼吸第38巻 第1号(2021.2.4)特別寄稿 総説「COVID-19肺炎に対する酸素療法と経鼻交流両酸素療法の適応について」VIII-①)」