新型コロナウイルス感染症 (COVID-19)

【呼吸管理学術部会】COVID肺炎に対するHFNCの使用について Ver.2

呼吸管理学術部会

2021年2月5日

一般社団法人日本呼吸器学会 呼吸管理学術部会

 HFNCはI型急性呼吸不全の挿管率や死亡率を減らし、使用には必ずしもICUを要さずICU滞在や人工呼吸器使用の抑制にも役立ち、また挿管を希望しないDo Not Intubate (DNI)の場合や抜管後の管理などでも有用な手段である。一方で高流量ガスが上気道内を通過して外部へ流出するオープンシステムであるため、COVID-19の場合エアロゾルを発生させウイルスを飛散させて院内感染を来す懸念がある。わが国では当初COVID-19においてHFNCは原則使用しないとされたが、諸外国のガイドラインでは推奨とされるものも多く、相反する指針をもとにどのように現場で対処していくのか、極めて難しい判断が求められた。これらの観点から日本呼吸器学会呼吸管理学術部会では2020年4月にA:通常の酸素吸入で酸素化が維持できなければ挿管人工呼吸を検討するB:通常の酸素吸入で酸素化が維持できなければまずHFNCを行う。の2案を提言し、その利点、欠点を勘案しながらいずれを採用するかは各施設の状況、考え方で判断するとした。
 第1波収束後の6月に日本呼吸器学会が行った156専門施設のアンケート調査では、COVID-19に対してHFNCを実際に使用したのは18施設(12%)のみにとどまったが、それらの施設における院内感染は認めなかった。
 HFNCのエアロゾル・飛沫発生リスクについてはシミュレーション実験の報告が蓄積されつつある。1)エアロゾル飛散: 煙によるシミュレーションでエアロゾルの高濃度範囲はHFNCの流量10L/minで 6.5cm、60L/minで17cmである1。2)エアロゾル産生:エアロゾル産生量と濃度はHFNC, 経鼻カニュラ、酸素マスク、通常呼吸において、口もと10cmとベッドサイドで差はなかった2。 通常の呼吸、酸素療法、HFNC、NIVのいずれでも室内のエアロゾル濃度は変わらなかった3。 3)飛沫飛散距離:健常人に色素の入った水でうがいして咳をさせて飛散距離を測定するとHFNCなしで390cm, ありで450cm4, HFNC 60L/min下で水分投与して飛沫中水分量を測定すると顔から30cmのところのみで検出5, 通常呼吸と6L経鼻カニュラ+サージカルマスク、HFNC 40L/min+サージカルマスク着用を比較すると、1m先まで飛散したものはそれぞれ31%, 6.9%, 15.9%であった6。これらの結果はいずれも少数例の検討で直接COVID-19を測定したものではないが、通常の呼吸や酸素投与法に比較してHFNCのリスクが特に高いという根拠は示されていない。
 COVID-19に対するHFNCの有効性を直接示すデータは未だ少なく、WHOで企画されたCOVID-19による急性呼吸不全に対するHFNCのシステマティックレビュー7でも通常の酸素療法と比較して挿管を減らす、ないし挿管やNIVへの移行を減らす可能性があるという弱い推奨でしかない。しかしその後有効性を示す新たなデータがいくつか発表されている。テンプル大学の成績8では、HFNC実施104例の挿管回避は64%におよび平均ICU滞在日数は6.5日と短い。またフランスからの後ろ向きコホート研究9では同程度の呼吸不全状態でHFNC実施146例は非実施例236例と比べて有意に挿管率が低く、ICU死亡率も低い傾向であった。HFNCによって挿管を回避できると早期モビラーゼーションが可能となり、呼吸器筋萎縮の減少、ICU滞在や入院期間の減少なども期待できる。JAMAのeditorial10においては、全ての環境に適合するガイドラインを作ることは困難であるが、COVID-19に対する十分な個人防護具と陰圧室がある場合にはHFNCはほぼ確実にベネフィットがリスクを上回るであろうと述べられている。なお、使用時には、過剰なエアロゾルの拡散を防ぐため、医療側の指示が理解・協力可能な患者で、カニュラが鼻腔内正確に挿入されていることを確認し、サージカルマスク装着を原則とする11。サージカルマスク装着時に呼吸困難がある場合には、医療従事者が入室する場合には少なくともサージカルマスクを装着する。なお、流量については本邦では30-40L/minにて十分な事が多く、不足時に増量する。また、HFNC回路内に過剰な水分が付着し、水抜きが必要な場合には、水分の飛沫に十分な注意が必要である。また現時点では陰圧室の使用が原則であるが、各施設の状況によっては個室やレッドゾーンでの使用を考慮する場合もありうる。
 わが国はCOVID-19の第1・2波をかろうじて少ないICU病床数で乗り切ることができたが、第3波の患者数の爆発的増加に伴ってICUの逼迫は著しい。今後は体制的に実施可能な施設では積極的にHFNCを使用していくB案の戦略を取ることで、医療資源の節約と患者の予後改善が期待される。

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  3. Gaeckle NT, Lee J, Park Y, Kreykes G, Evans MD, Jr. CJH. Aerosol Generation from the Respiratory Tract with Various Modes of Oxygen Delivery. Am J Respir Crit Care Med 2020;202(8):1115-24.
  4. Loh N-HW, Tan Y, Taculod J, et al. The impact of high-flow nasal cannula (HFNC) on coughing distance: implications on its use during the novel coronavirus disease outbreak. Can J Anesth/J Can Anesth 2020;101:1-2.
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  6. Leonard S, Strasser W, Whittle JS, et al. Reducing aerosol dispersion by high flow therapy in COVID‐19: High resolution computational fluid dynamics simulations of particle behavior during high velocity nasal insufflation with a simple surgical mask. J Am Coll Emerg Physicians Open 2020;1(4):578-91.
  7. Agarwal A, Basmaji J, Muttalib F, et al. High-flow nasal cannula for acute hypoxemic respiratory failure in patients with COVID-19: systematic reviews of effectiveness and its risks of aerosolization, dispersion, and infection transmission. Can J Anesth/J Can Anesth 2020;382(41):727.
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  9. Demoule A, Baron AV, Darmon M, et al. High Flow Nasal Canula in Critically Ill Severe COVID-19 Patients. Am J Respir Crit Care Med 2020; 10.1164/rccm.202005-2007LE
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  11. Ferioli M, Cisternino C, Leo V, Pisani L, Palange P, Nava S. Protecting healthcare workers from SARS-CoV-2 infection: practical indications. Eur Respir Rev 2020;29(155):200068.