呼吸器の病気
D. 間質性肺疾患
特発性間質性肺炎
とくはつせいかんしつせいはいえん
概要
肺は肺胞というブドウの房状の小さな袋がたくさん集まってできています。間質性肺炎は、肺胞の壁に炎症や損傷が起こり、壁が厚く硬くなるため(線維化)、酸素を取り込みにくくなる病気です。原因不明のものを特発性間質性肺炎(IIPs)と総称します。IIPsは主要な6つの病型、稀な2つの病型および分類不能型に分類されます。
疫学
最近の我が国の調査では、IIPsのなかで、特発性肺線維症(IPF)が最も多く、70~80%、次いで特発性非特異性間質性肺炎(特発性NSIP)が5~16%、その他、特発性器質化肺炎が2~3%程度、特発性胸膜肺実質線維弾性症(特発性PPFEと呼ばれます)が5~7%を占めています。わが国におけるIPFの調査では、発症率が10万人対2.23人、有病率が10万人対10.0人とされています。IPFでは、喫煙が「危険因子」であると考えられています。
発病のメカニズム
IIPsの原因は不明ですが、複数の原因遺伝子と環境因子が影響している可能性が考えられています。また、IPFは未知の原因による肺胞上皮細胞(肺胞壁の構成細胞)の繰り返す損傷とその修復・治癒過程の異常が主たる病因・病態とされており、肺胞上皮細胞の機能に関与する遺伝子異常が注目されています。
症状
初期には無症状ですが、進行に伴い、動いた時の息切れや痰を伴わないせきを自覚します。時に1ヶ月以内の短期間で症状が悪化する場合あり、「急性増悪」と言います。IPFで最も多いですが、他の病型のIIPでも認められます。
診断
問診、身体診察に加えて、胸部CT(図1)、呼吸機能検査、運動時の血液中の酸素の量(酸素飽和度)の確認、気管支鏡検査による組織採取や肺の洗浄検査等から診断を行います。患者さんの年齢、合併症を含めた病状を総合的に評価し、全身麻酔で行う手術や気管支鏡による凍結生検法による組織採取も行われます。
治療
IPFでは慢性的な進行を遅らせるため、抗線維化薬(ピルフェニドン、ニンテダニブ)が使われます。IPF以外の病型のIIPsでは、ステロイド薬や免疫抑制薬の他、線維化が進行すればニンテダニブの使用を検討します。特発性PPFEに対して推奨できる薬剤はありません。進行すれば酸素吸入が必要です。急性増悪時には、ステロイド薬や免疫抑制薬で治療されます。
生活上の注意
風邪、インフルエンザ、新型コロナウィルス感染、肺炎などをきっかけとして急性増悪が発症することがあります。日常の手洗いやうがい、ワクチン接種が推奨されます。
予後
IPFの生存期間中央値は欧米では診断確定から28~52ヶ月、わが国では35ヶ月(約3年)とされていますが、経過は患者さんによって様々です。特発性非特異性間質性肺炎や特発性器質化肺炎は一般に治療で改善が期待され、IPFよりも予後は良好とされますが、徐々に悪化していく場合もあります。特発性PPFEの経過は様々で、経過の予測は困難です。
図1 特発性間質性肺炎の胸部CT
(A)特発性肺線維症:典型的には、のう胞が蜂の巣状に集まる"蜂巣肺"と言われる所見を示す。(B)特発性非特異性間質性肺炎:肺野の末梢部分よりもやや内側にすりガラス状陰影を認める。線維化を示す牽引性気管支拡張を認める場合もある(文献1から引用)。
(C)特発性胸膜肺実質線維弾性症:上肺野の胸膜下に濃厚な陰影、牽引気管支拡張を認める。

(2025年9月)
参考文献
- 日本呼吸器学会 びまん性肺疾患診断治療ガイドライン作成委員会編集.特発性間質性肺炎 診断と治療の手引き2022 改訂第4版. 南江堂, 2022年.
- Fujisawa T, Mori K, Mikamo M, et al. Nationwide cloud-based integrated database of idiopathic interstitial pneumonias for multidisciplinary discussion. Eur Respir J. 2019 May 18;53(5):1802243.
- Okuda R, Ogura T, Hisata S, et al.. Prognostic prediction for newly diagnosed patients with idiopathic interstitial pneumonia: JIPS Registry (NEJ030). Respir Investig. 2025 May;63(3):365-372.
- 特発性間質性肺炎(難病情報センター; https://www.nanbyou.or.jp/entry/156)



