呼吸器の病気

B. 気道閉塞性疾患

慢性閉塞性肺疾患(COPD)

まんせいへいそくせいはいしっかん

概要

 慢性閉塞性肺疾患(COPD:chronic obstructive pulmonary disease)は、タバコの煙を主とする有害物質を長年吸い込むことなどが原因となり、肺の空気の通りが悪くなり、息切れ、せき、たんなどの症状を起こす病気です。症状が徐々に悪化するだけでなく、感染などを契機に増悪(急な悪化)を起こして緊急の治療や入院が必要となることがあります。適切な治療により症状を改善し、増悪(急な悪化)を予防することが重要です。

疫学

 日本では、40歳以上の約12人に1人、推定で530万人以上がCOPDの患者であると考えられていますが、実際に医療機関に受診している人は約38.2万人です(※1)。ゆっくりと進行するため、自分では気づきにくく、多くの方が診断や治療を受けていないのが現状です。

発病のメカニズム

 主にタバコの煙などを長年吸い込むことで発症し、肺気腫(肺が壊れる)や慢性気管支炎(気管支の炎症が続く)で肺の空気の通りが悪くなり、息切れ、せき、たんなどの症状がみられます。最大の原因は喫煙であり、喫煙者のおよそ15~20%が発症するとされており、その他にも大気汚染や呼吸器感染症、職業上の曝露などが影響することもあります。

症状

 歩行時や坂道・階段での息切れ、長引くせきやたんがみられます。また、風邪をひくと長引いたり、繰り返したりします。喫煙歴(現在は禁煙していても過去に喫煙習慣があった方を含む)があり、これらの症状に心当たりがある方は、呼吸機能検査(スパイロメトリー)ができる医療機関を受診することをおすすめします。

 下記に、COPDの症状を簡単に確認できるチェックリスト(COPD-PS)のリンクを掲載しています。気になる症状がある方は是非ご活用ください。
https://www.gold-jac.jp/support_contents/copd-ps 【一般社団法人GOLD日本委員会】

診断

 呼吸機能検査では、空気が肺からうまく吐き出せない閉塞性換気障害がみられます。自覚症状が少ないこともあるため、健診などでこの異常を指摘された場合は、早めにかかりつけ医や呼吸器内科を受診しましょう。CTでは肺気腫を認めることがあります。COPDでは骨粗鬆症、栄養障害、心血管疾患などの全身併存症が増加するため、これらの全身併存症の診断、治療もあわせて行います。

治療

 治療の目的は、息切れやせきなどの症状を和らげ、病気の進行や増悪(急な悪化)を防ぐことにあります。喫煙を続けると呼吸機能の悪化が加速してしまうため、禁煙が治療の基本となります。治療薬としては気管支拡張薬(抗コリン薬、β2刺激薬)の吸入薬が中心となり、必要に応じて吸入ステロイドが併用されます(注1)。飲み薬としては、たんを出しやすくする薬およびテオフィリン薬や、感染症が原因で症状が悪化した場合に抗菌薬が使われます。息切れを軽くする呼吸法や、筋力・持久力を保つための運動療法などのリハビリテーションを取り入れることで、呼吸機能の維持や生活の質の向上が期待できます。病気が進行して体内の酸素が不足するようになった場合には、自宅で酸素を吸入する治療や、小型の人工呼吸器を使って呼吸を助ける治療が必要になることもあります。

(注1)治療薬の種類や使用方法などについて、より詳しく知りたい方は以下のリンク(独立行政法人環境再生保全機構のサイト)もご参照ください:
https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/copd/about/09.html

生活上の注意

 手洗いやうがいを習慣づけ、インフルエンザや肺炎球菌、新型コロナウイルス、RSウイルスに対するワクチンを受けておくことで、感染による増悪を予防します。また、身体活動性を向上させること(注2)も大切です。COPDでは呼吸に多くのエネルギーを使うため、栄養不足による体力低下をきたしやすく、バランスの良い食事で体重を管理することが大切です。治療を継続し、定期的に医療機関を受診することで、症状を改善し増悪を防ぎ、病気の進行を防ぐことが重要です。

(注2)「身体活動性の向上」とは、普段の生活や仕事などを含む身体の活動で、「じっとしている=不活動」状態をなるべく減らして活動的に日々を過ごすことを指します.

「木洩れ陽2032」プロジェクト

 2023年の日本におけるCOPDの死亡者数は16,941人です(※2)。日本呼吸器学会では、2032年までにCOPDによる死亡率を減らすことを目標に、「木洩れ陽2032」プロジェクトを推進しています。自治体や医療機関と協力し、COPDの早期発見と治療の重要性を広めています。

 COPDについてさらに詳しく知りたい方は、以下のウェブサイトをご覧ください。

https://www.jrs.or.jp/comore-by2032/ 【一般社団法人日本呼吸器学会】

参考資料

※1 政府統計の総合窓口(e-Stat)(https://www.e-stat.go.jp/)令和5年患者調査
※2 厚生労働省 令和5年(2023)  人口動態統計月報年計(概数)の概況