呼吸器の病気

A. 感染性呼吸器疾患

市中で起こる肺炎

しちゅうでおこるはいえん


概念

 呼吸器の感染症の中で、自然に治る「かぜ症候群」とは異なり、治療しなければ死亡する可能性の高いのが肺炎です。肺炎の中でも病院外で日常生活をしていた人に発症する肺炎を市中肺炎と呼びます。

疫学

 肺炎は全年齢に起こりますが、65歳を超えると発症率が増加します。原因となる微生物で最も多いのは肺炎球菌で、重症化し易いのが特徴です。一方、若年者では肺炎マイコプラズマの頻度が高く、軽症例が多いです。

発症のメカニズム

 気道を通して侵入した病原体が肺内で増殖し、炎症が引き起こされた状態です。年齢に加え、基礎疾患(脳梗塞、糖尿病、心・腎疾患など)を持つ人が発症し易く、かつ重症化し易いです。

症状

 咳や、たん、息切れ、胸の痛み、発熱などが一般的にみられますが、高齢者では一般的な症状がみられず、「いつもと様子が変」「ボーっとする時間が多い」「食欲がない」などで発見されることもあります。

診断

 診察所見、胸部エックス線画像、血液検査で診断します。肺炎と診断した場合には、さらに原因微生物を調べる検査を追加します。

治療

 病原微生物に効果のある抗微生物薬で治療します。肺炎の程度が軽いのか重いのかを5つの指標で決定します(A-DROPシステム:図1)。例えば、スコアが0点(軽症)ならば外来で治療が可能ですが、3点以上ならば入院して点滴治療が望ましいです。

生活上の注意

①栄養状態の保持と禁煙
 栄養状態が悪いことや喫煙は肺炎になり易く、重症化し易いことが分かっています。

②併存疾患のコントロール
 糖尿病や心臓疾患、腎臓疾患などの日常コントロールが良好の場合には肺炎のリスクが低下します。

③口腔ケア
 高齢者では口腔内の常在菌が肺炎の原因になるため、口腔を清潔保つことが重要です。

④ワクチン
 65歳以上の高齢者では微生物に対する免疫が低下するため、ワクチンが有効な手段です。現在、定期接種化されているワクチンには、インフルエンザ、新型コロナウイルス、肺炎球菌があります。これに加えて、RSウイルスのワクチンも任意で接種可能です。

予後

 肺炎は比較的治りやすい病気ですが、高齢者の場合、肺炎治癒後に日常生活動作の低下する人や認知症になる人が存在します。肺炎は治療ではなく予防が重要です。

(2025年8月)

図1.肺炎の重症度を規定する5つの因子

disease_a-04_01.jpg