市民のみなさまへ
市民のための医療コラム
知らないうちに吸い込んでいる?──夏に増える「過敏性肺炎」とその予防法
はじめに
「夏になると咳が続く」「熱はないのに息切れする」──そんな症状が続く場合、もしかするとそれは「過敏性肺炎」かもしれません。
過敏性肺炎は、空気中のカビや細菌、動物性たんぱく質などを繰り返し吸い込むことで、肺がアレルギー反応を起こしてしまう病気です。カビや細菌の「かけら」がアレルギー反応を起こすので肺の中ではこれらは増殖しません。特に「夏型過敏性肺炎」は、日本の住宅環境でもよく見られ、自覚のないまま重症化するケースもあるため、早期の気づきと対策が重要です。
このコラムでは、夏型過敏性肺炎の特徴と原因、そして日常生活でできる予防のポイントについてご紹介します。
過敏性肺炎とは?
過敏性肺炎は、吸い込んだ微粒子にアレルギー反応が過剰に起きることで肺に炎症が起こる疾患です。原因となる物質(抗原)は、自宅のエアコン内部や押し入れ、古い家具、農業や工場などの作業環境にも存在し、カビ・細菌・鳥のフン・羽毛などが代表的です。
発症すると、咳や発熱、息苦しさ、倦怠感などの症状が現れます。初期は風邪に似ていますが、繰り返し抗原にさらされることで慢性化し、肺が線維化(硬くなってしまう)することもあります。
「夏型」に注意が必要な理由
中でも日本でよく見られるのが「夏型過敏性肺炎」です。
これは、家屋に生息するトリコスポロンという真菌(カビ)を繰り返し吸い込むことが原因で、特に湿気の多い梅雨〜夏にかけて発症しやすくなります。
古い木造住宅や風通しの悪い室内、長期間掃除していないエアコンなどが温床になりやすく、気づかないうちに体調不良が続くケースも少なくありません。
生活の中でできる予防と対策
夏型過敏性肺炎を防ぐためには、「吸い込まない工夫」が大切です。カビが生える要因として、図 に示すように、湿度(60%以上)、温度(20℃台)、空気(酸素)、養分があり、特に温湿度が重要です。カビ発生の制御策として湿度を下げる・ものを乾かす・換気をよくする・掃除をする及び個人防御策としてマスクをする、が有効です。

図 カビの生えやすい湿度(RH%)と温度
(出典:日本臨床環境医学会 提言
『室内環境の視点からみた住まいのアレルギー対策』2025年2月21日発表
PDFはこちら より引用)
具体的には、以下のような対策が効果的です:
・雨もりした天井や壁、建材の木が黒くなっている(腐木)ところはリフォームする
・エアコンのフィルターや内部の定期的な清掃
・押し入れや家具の裏など湿気のたまりやすい場所の換気と除湿
・ホコリの中に抗原がたまるので掃除機をよくかける
・布団やカーテンなどの洗濯・乾燥をこまめに行う
・室内でカビ臭さを感じたら、すぐに掃除・点検を
また、毎年夏に決まって咳が出る・体調が崩れるという方は、一度専門医に相談することをおすすめします。
呼吸の大切さを改めて
過敏性肺炎も、私たちの「呼吸」と深く関わる病気です。
普段何気なく吸っている空気の中に、体に負担をかける物質が含まれているかもしれません。だからこそ、「空気の質」と「呼吸の状態」に少しだけ意識を向けることが、健康を守る第一歩になります。
おわりに
過敏性肺炎は、原因を知り、早く気づき、対策をとることで防ぐことができる病気です。
特に夏型は、生活環境と密接に関わっており、日々の習慣の中で予防できる点も多くあります。
「なんとなくの不調」を見逃さず、呼吸器の視点から健康を見直すきっかけにしていただけたら幸いです。
2025年07月30日



