Last Update:2017年6月23日

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呼吸器の病気

G-03胸膜疾患
きょうまくしゅよう

胸膜腫瘍

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【胸膜とはなにか?】

 胸の中には肺、心臓、気管、気管支、血管などの臓器がありますが、これらの臓器を被っているのが胸膜です。また胸の壁(かべ)を形成している肋骨や肋骨の周りの筋肉を被っている胸膜もあります。前者を臓側胸膜(ぞうそくきょうまく)、後者を壁側胸膜(へきそくきょうまく)と呼びます。図1を見て下さい。これはひとの胸を正面から見た図ですが、右の肺は膨らんだ状態、左の肺はしぼませた状態で描いています。肺をしぼませたときに肺を被っているのが臓側胸膜、その外側にあるのが壁側胸膜となります。実際には臓側胸膜と壁側胸膜は一枚にくっついているのですが、複雑になるのでこの図では離れているように書かれています。また正常の状態では肺は膨らんでいるので右の肺で描いたように臓側胸膜と壁側胸膜は重なって見えます。胸膜は中皮細胞(ちゅうひさいぼう)などで構成されています。

図1
図1

【胸膜腫瘍の種類】

 胸膜にできる腫瘍の代表格が悪性胸膜中皮腫というがんです。また他の臓器のがん(肺がん、乳がん、胃がんなど)から胸膜に転移をすることも少なからずあります。それ以外は大変まれな病気ばかりになりますが、孤立性線維性腫瘍(以前は限局性胸膜中皮腫、良性中皮腫などと言われていましたが、最近では胸膜以外にも発生する良性から悪性までの特徴をもつ腫瘍であることが分かってきました)、膿胸(のうきょう)関連リンパ腫などがあります。以下、悪性胸膜中皮腫について解説します。
*参考:胸膜プラークについて
胸膜の一部が厚くなって石灰化(組織が骨のように固くなっている状態)した状態です。胸膜プラークそのものから悪性胸膜中皮腫を含めたがんが発生することはありませんし、特に体に不都合を来すことはないので放置しても心配ありません。しかし、胸膜プラークが存在することはアスベスト(石綿(いしわた))を吸い込んだことの証拠となります。アスベストの低濃度曝露でも高濃度曝露でも発生するので、日本人であれば誰でもなる可能性があります。検診などで指摘される場合もありますが、胸膜プラークのみであれば必ずしも精密検査は必要ありません。

【悪性胸膜中皮腫の頻度・なりやすいひと】

 肺がんや胃がんに比べると頻度の低いがんですが、現在、年間千数百人がこの病気で亡くなっています。アスベストを吸い込んでから25~50年程度で発症すると言われています。職業曝露で発症するだけでなく、アスベストを取り扱う工場の周辺住民での発症が社会問題となりました。頻度は下がりますが身近な環境での低濃度曝露(以前は理科の実験器具や学校の天井などにも使われていました)でも発症すると考えられています。
  日本では現在アスベストの輸入・使用は禁止されていますが、これまでに建築用資材などで使用されてきた量などから2020年頃に発症のピークを迎え、その後は減少すると推測されています。

【悪性胸膜中皮腫はどのような病気?】

 前述の胸膜のうち、壁側胸膜の中皮細胞からがんが発生し、壁側胸膜および臓側胸膜に急速に広がっていきます。多くの場合、胸膜の間にがん細胞を含んだ水(胸水)が貯まり、その結果、肺や心臓を圧迫します。さらには肺の中まで進展したり、胸の外(脳、肝臓、骨など)にも転移します。図2は左の胸膜全体に広がった様子を示します。CTを撮ると、これらの病気は肺の中ではなく、肺の外側の胸膜に沿ってべったりと広がっていることが分かります(図3の星印の部分)。

図2
図2

図3
図3

【悪性胸膜中皮腫の症状】

 胸の痛み、呼吸困難感、息切れ、咳などの症状がでますが、これらは胸水が貯まったことによる症状です。従ってこれらの症状が出たときには既にがんが片方の胸の中いっぱいに広がった状態です。さらに進行すれば、倦怠感、体重減少、発熱などの症状もでます。早期発見の難しい病気といえます。

【胸膜腫瘍の診断】

 胸水が貯まっていれば細い針を胸に挿して胸水の一部を採取し、その中にがん細胞、細菌、結核菌などが含まれているかどうか調べます。もしがん細胞が含まれていれば悪性胸膜腫瘍という診断になり、さらにどのような種類の悪性胸膜腫瘍かを調べることになります。他の臓器にがんがある場合にはそこからの胸膜転移であることが比較的簡単に分かりますが、悪性胸膜中皮腫かどうかは胸水を調べるだけでは不十分であり、太い針を使って組織を大きく採取したり、胸腔鏡(きょうくうきょう)を使った手術によって組織を採取することもあります。また、全身へ広がっていないかどうかを調べるために、PET/CT検査や全身の造影CT検査を行うことも多いです。

【悪性胸膜中皮腫の治療】

 治療は病気の進行度などにより異なります。全身状態が良好で病気が片方の胸だけに限局している場合は手術が可能なこともあり、がんとその周囲の正常組織の一部を切除する手術、片側肺全体と胸膜、横隔膜、心嚢膜の一部を切除する手術などが行われます。手術の前後で化学療法や放射線治療を行うこともあります。胸膜癒着術といって、化学物質または薬剤を用いて胸水の貯留を防ぐ方法がとられることもあります。化学療法を行う場合には、ペメトレキセドとシスプラチンを併用することが一般的です。これらの治療と同時に身体的症状や精神的症状を和らげる緩和ケアを並行して行いますが、緩和ケアだけを行うこともあります。

【生活上の注意】

 身体的能力が損なわれていない限り、食事・日常生活・仕事などに特に制限はありませんが、体力的に自信がないときは主治医や看護師と相談して下さい。がんに対する民間療法やサプリメントの広告に惑わされがちですが、効果が無いだけでなく思わぬ副作用が潜んでいることもあります。試す前に必ず主治医や薬剤師に相談することが重要です。

【予後】

 手術は治癒を目指して行いますが、残念ながら手術をして病気を取り除けば必ず治癒するとは限らず、再発することも少なくありません。化学療法のみを行う場合、緩和ケアのみを行う場合は治癒を期待することができませんが、生存期間の延長、症状を和らげること、生活上の支障を軽減することに役立つと期待されます。
*参考:公的救済制度について
悪性胸膜中皮腫はアスベスト吸入と強い関連があるため、労働災害として労働者災害補償保険法による保険給付を受けることができます。その他、アスベストが関与したと考えられる肺がんを含め、労働者災害補償保険法の対象とならない方でも、「石綿による健康被害の救済に関する法律」による救済給付を受けることができます。詳しくは、都道府県労働局、労働基準監督署などに問い合わせて下さい。

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